2024/09/20 17:35

以前からお世話になっている滋賀の紺屋さんへ、糸を染めに行かせていただきました。


ご主人は、今年卒寿を迎えられました。
久しぶりにお会いしたのですが、杖をついていたものの、変わらず腰も背筋も真っ直ぐで、
さらりと糸染めの手本を見せてくれました。
今年の夏は体調を崩されていて、その間に藍甕が駄目になってしまったそうなのですが、
復帰後にまた藍を建て直し、染めの仕事を続けてらっしゃいます。

でもやっぱり少ししんどそう…私が来たことで無理させてしまったよな…と心配になったのですが、
奥様から「お昼ご飯食べた後に横になって休むから大丈夫!」と言っていただき、有難いやら申し訳ないやら。

 ↓ 糸の精練中。かまどがかっこ良過ぎます。私もこんなの作りたい。


 ↓ 糸染めのお手本。万全ではないお身体でも、当然のように淀みなく自然。


藍の染液は冷えると良くないので、冬場は甕と甕の間の穴に籾殻を入れて焚き、その熱で甕を温めるそうなのですが、
甕場の壁も天井も煤で真っ黒。
この壁と天井にはどれだけの歴史が詰まっているのかと、たかだか10年ほどしかお世話になっていない私が
勝手にしみじみしていました。

 ↓ 冬になると籾殻を入れて焚く穴。甕場には、夏でもスモーキーな匂いが漂っています。


 ↓ 壁も天井も煤で漆黒。触っても煤が手に付かないほどぎっしり、艶々しています。


 ↓ 今回は、3色に染めました。


久しぶりに染めに行ったので、糸染めの手順を忘れているところがあり、相変わらず怒られました。
大きな声で「違う!」と怒られても、その声に安心しつつ、あと何回この声を聞けるだろうかと悲しくなりつつ。

ご夫婦でずっと続けてこられた藍の栽培と蒅作りも、昨年やめられました。
それ以降は保存していた蒅を使って藍建てをされてきたのですが、その在庫が残り少なくなってきており、
あとどれくらい藍を建てられるか分からないそうです。

江戸時代から数百年続く家業。後継者はいません。

  伝統を守ろうと思ってやってきたわけじゃない。ただこれが家業やから続けてきただけや。
  世の中が必要としなくなったら無くなるのが当たり前。
  この家業は、自分で終わりにする。

10年前、ご主人から言われました。
この言葉に、どれほどの経験と思いが込められているのだろうか。
今の私には計り知れないような人生を歩まれてきた、職人の言葉です。